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第1回 トップマネジメントの強い意思決定

コラム

第1回 トップマネジメントの強い意思決定

世界最高峰の食品安全認証規格

FSSC22000にトライ!

~キックオフから認証審査まで~

「ISO 9001の認証を取得し、日々改善に努力しているつもりだが、なかなか不良率も減らないし、クレームも減らない」─こういったお悩みを持っておられる食品工場はたくさんあります。どこが問題なのでしょうか。私はこれまでの経験上、食品工場で起きる品質問題の9割は一般衛生管理に関するものと考えています。これを疎かにしてはいけません。
GFSI*承認の食品安全認証スキームの1つであるFSSC 22000という規格は、一般衛生管理を、規格用語で言えば「PRP(前提条件プログラム)」を非常に明確な形でスペックにしているところが大きな特徴です。PRPの明確化は、これまで日本の食品業界では、ほとんど行われて来なかった部分です。それだけに、FSSC22000に日本の食品工場が取り組むことで、PRP強化による大きな効果が期待できるのではないかと思います。
本記事から6回にわたって、食品安全認証規格FSSC 22000について、キックオフから認証取得までの取り組みを、下記の内容で解説してまいります。

第1回 トップマネジメントの強い意思決定
第2回 食品安全マネジメントシステムの構築・運用のための設計図の作成
第3回 前提条件プログラム(PRP)
第4回 HACCPというツールの使い方
第5回 教育・訓練のやり方
最終回 検証とマネジメントレビューを通じた改善活動でPDCAを回す〜認証取得への道〜

本特集では、できるだけ現場に近いお話をしながら、食品安全マネジメントシステム(以下、FSMS)を構築・運用し、最終的にはFSSC 22000の認証取得をターゲットしておられるご担当者様を後押しできる内容にしたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いします。

*GFSI(グローバル・フード・セーフティ・イニシアチブ) GFSIは、世界中の小売業やメーカー、 フードサービス業、並びに食品サプライチェーンに関わるサービス・プロバイダーから 業種を超えて食品安全専門家達が集まり、協働して食の安全に取り組んでいる組織であり、現在、食品安全に関する10の認証スキームを承認している。

 
 
 

経営者はFSSC 22000で何を目指すのかを明確にする


 

ISOマネジメントシステム( 以下、ISOMS)は本来、経営者のための道具であり、仕組みであると思います。ですから経営者は、強い意思を持って、ISOMSを通じて会社として何をしたいのかを明確にすることが責務です。これは、FSSC 22000だけでなく、ISO 9001やISO 14001など、どのISOMSについても言えることでしょう。
会社によって目指すべきゴールは異なると思います。例えば、FSSC 22000によって「組織の衛生管理の基盤を強化したい」「構築を通じて従業員の衛生レベルを向上させたい」「対外的に食品安全をアピールしたい」などがあるでしょう。
図表1は、FSSC22000に取り組むことで経営的に何が得られるかをまとめたものです。ここでは、期待できる効果として3つ挙げています。
まず「食品安全に関するリスクを最小限に抑えることが可能」であることです。法規制を守る方向とコラボレーションしていますし、ハザード分析をすることで、自らのリスクがどのような状況なのかが分かります。
次に「組織全体の食の安全への意識が向上する」ことです。組織の志気が向上し、仕組みを構築・運用していく中で人が育ちます。
最後に「食品安全への取り組みを対外的にアピールできる」ことです。認証取得は、世界に通用するお墨付きをもらったということです。今後のTPPやアジアの食の動きから見ても、国際的に認知された認証を取得する意義は大きいと思います。
この図表1で示した内容をよくご理解いただいた上で、自社としてFSSC 22000で何を目指すのかを明確にしていただければいいのではないでしょうか。

FSSC22000に期待できる効果

トップをやる気にさせるコツ①リスク低減とコスト効率向上


 

もともとISOMSには、事業を次の世代に継続していく、すわなち「事業継続」が考え方の根底にあると思います。ですから、目先の効果ではなく、経営の足腰を強くするといった効果をねらっています。ISOMSに取り組むことで、売上が上がる、利益が出る、生産性が向上する、取引先が増える、といった直接的な効果が出ることは、あまり期待できません。
では、もしあなたがミドルマネジメントであり、FSSC 22000の認証取得を経営者に提案する立場だったら、どのようにその経営的メリットを説明すればよいのでしょうか。「FSSC 22000に取り組めば、経営の足腰が強くなります」といった話を経営者にしても、「そうか、じゃあ、やろう!」といった回答が返ってくる可能性はきわめて低いと思います。昨今、ISO認証が伸び悩んでいる理由も、そこをうまく説明し切れていないからではないでしょうか。
食品会社が、国際的に認知されたFSMSの構築・運用に取り組むメリットは何でしょうか。それを考える際の参考になるのが、GFSIが掲げている4つのミッションです(図表2)。ここでは、GFSIの目的として「食品安全マネジメントシステムを継続的に改善し、世界中の消費者に安全な食品を提供する際の信頼を確実にする」とし、「食品安全におけるリスクの低減」「コスト効率の向上」「技量、力量の開発と能力の構築」「知識の交流・共有とネットワーク作り」の4項目を挙げています。例えば、食品事故の発生というリスクを低減したり、不良品を作らず、コストパフォーマンスを上げることでコスト効率を向上することができます。
「不良品を作らないことなら、ISO 9001でもできるだろう」という反論もあるでしょう。ですが、ISO 9001の認証を取っておられる食品工場で、「不良率が下がらない」「クレームが低減できない」と言っておられたお客様が、FSSC 22000に取り組んだところ、「今まで見つからなかった不具合が見つかるようになった」と言われるケースを、私は数多く見聞きしています。
なぜなら、品質マネジメントシステム(以下、QMS)に取り組んでおられる企業の多くは、何か問題が起きたらそれを是正するということを繰り返しておられ、問題が発生する前に処置をする、すなわち予防処置にはあまり力を入れておられないからです。一方、ISO 22000でもFSSC 22000でもそうですが、FSMSは予防処置に注力するのです。しかも、QMSという品質全般向けのスペックではなく、食品安全分野に絞ったスペックで詳細に取り組むことになります。この差は非常に大きいと思います。
GFSIが掲げる「コスト効率の向上」も、単なる謳い文句ではなく、実際に品質事故やそれに伴う商品回収を未然に防いでいることのコスト効果は、はかりしれないものがあります。経営者には、この点をよくご理解いただきたいと思います。

GFSIの目的と4つのミッション

トップをやる気にさせるコツ②
消費者の最大関心事は「食品の安全性」


 

ここで、経営者にぜひご認識いただきたい2つの重要なデータをご紹介しておきましょう。
1つは、国内における食品事故の件数が、年によって少々増えたり減ったりしてはいるものの、ここ6年くらいは、ほぼ横ばいであることです。食品問題がこれだけマスコミ
で取り沙汰され、その対策が要請されているにもかかわらず、事故件数は減少していません。
もう1つの重要なデータは、2014年に内閣府が実施した「消費者行政の推進に関する世論調査」で、「どの分野の消費者問題に対して関心がありますか?」という問いに対し、「食品の安全性について」(81.7%)がダントツで第一位だったことです。ちなみに第2位は「偽装表示などの偽りの情報について」(66.8%)ですから、国内の消費者の関心事の第1・2位は食品に関する内容なのです。
この2つの傾向から、食品安全対策としてFSMSの構築・運用が急務であり、食品
安全が消費者の最も大きな関心事であることを、経営者はきちんと理解した上で、FSSC 22000で何を目指すべきかを考えなければならないと思います。

 
 
 

トップをやる気にさせるコツ③
なぜ食品安全規格が必要か


 

私は、初めてFSSC 22000に取り組む企業に規格を説明する際は、これを見せています(図表3)。そもそも、なぜ食品安全規格が必要になったのでしょうか。それは、食品事故が多発しているからです。単に食品事故の件数が増えているだけでなく、重篤性の高い事故も増えています。また、食品の原料調達・加工・生産がグローバル化してきた点も背景としてあります。さらに、組織が食品に関する監査を受ける回数が増え、その分、監査コストが増えていることもあります。最後に、さまざまな食品安全規格が発行されているので、どの認証を取ればいいのか分かりにくくなっていることも関係しています。
こういった問題を収拾するため、食品安全の世界的な規格が必要になり、GFSIではガイダンスドキュメント(食品安全に関する評価の手順や基準を示した文書)を作成し、それに基づいて現在10の認証スキームを承認しています。GFSI承認による認証は、食品安全にきちんと対応した仕組みであることを示す世界共通のお墨付きであり、FSSC 22000の認証もそのうちの1つです。これらの認証スキームに共通している目的は、「食品安全向上」「消費者の信頼」「コストの削減」です。

食品安全規格の必要性の背景

トップをやる気にさせるコツ④
PRP強化ならFSSC 22000


 

世界共通のFSMS規格としてメジャーな規格は、FSSC 22000のほかに、ISO22000もあります。企業はどちらを選択すべきでしょうか。
ここで、日本の特殊な状況を考えてみましょう。日本における一般衛生管理は、具体的に「このようにしなさい」とは言いにくい状況でした。食品事故を未然に防ぐようなプログラムは、「企業が自分で作るもの」とされていました。大企業であれ、中小企業であれ、それぞれのレベルで対応するしかありません。ですから、「環境やインフラの整備は、力のある企業でないとできない」と決め込んでいたようなところがあります。ところが、冒頭で申し上げたように、FSSC22000という規格は、一般衛生管理を、つまり規格用語で言えばPRPを明確にスペックとして示しています。そこは、今までの日本の食品業界には、ほとんどなかった部分なのです。
ですから、すでにISO 22000の認証を取られている企業でも、徐々にPRPに対して力を付けて来られたのなら、今度はステップアップして、FSSC 22000の認証取得を目指してはいかがでしょうか。
FSSC 22000の要素を図式化すると図表4のようになります。FSSC 22000は、ISO 22000をベースに、さらに産業分野毎の技術仕様(前提条件プログラム)がプラスされている規格です。食品製造であればISO/TS 22002-1であり、これはもともとBSI(英国規格協会)が発行しているPAS 220が原型になっています。このほか、食品包装材料製造であればISO/TS22002-4、動物飼料製造であればISO/TS22002-6、畜産であればISO/TS22002-3が加わり、FSSC22000が構成されています。
このようにFSSC 22000が産業分野別に技術仕様を定めているのは、GFSIが食品安全をフードチェーンの中で考えているからに他なりません。From farm to tableと言われるように、原材料が提供される農場から始まって、加工工場や流通を経て、最終的に消費者の口に入るまでのフードチェーンの中で食品安全を確保しなければなりません(図表5・6)。一企業で頑張っていても、食の安全は確保できません。上流から下流まで、食の安全を確保する認識が重要です。
FSSC 22000は、GFSIが推進するフードチェーンでつなげていくための仕組みづくりの中に位置付けられています。例えば、現在は食品製造機器やケータリング分野の技術仕様作成を進めています。このような動きは、FSSC 22000だけに限らず、GFSI承認の認証スキーム全体に言えることです。

FSSC22000の要素 フードチェーンの供給者 フードチェーンの関係図

ISO 22000とFSSC 22000におけるPRPの比較


 

PRPに関する要求事項の違いを、ISO22000とFSSC 22000とで比較してまとめたのが図表7です。ISO 22000はフードチェーンに関係する企業であればどこでも適用できるので、同規格の「7.2.3 前提条件プログラム」は、ある意味では大雑把で、「取り組むべき内容は自分たちで決めてください」としています。この要求事項に対して、どこまで仕組みを構築すればいいのかを考えた時、ISO 22000に取り組む企業にとっては悩ましいところです。一方、FSSC 22000に包含されているISO/TS22002-1では、「PRPについては、ここまで明確にしておけばいい」ということがはっきりと示されています。ですから、企業にとっては、ISO 22000よりもFSSC 22000のほうが取り組みやすいのではないでしょうか。
繰り返しになりますが、かつて日本の食品工場で発生している問題の9割くらいはPRPに関する内容です。CCPやOPRPの問題は普通起きません。というより、CCPやOPRPで問題を起こしたら、もう会社は終わりです。起きている食品問題のほとんどは、PRPをきちんと構築・運用していなかったことが発端です。
本腰を入れてPRPに取り組むなら、FSSC 22000にトライされることを推奨します。

ISO 22000の「7.2.3 前提条件プログラム」とISO/TS 22002-1の関係

食品安全のアセスメントを「健康診断」に喩えると


 

最後に、FSMSのアセスメントについて一言申し上げたいと思います。私はいつも「健康診断」に喩えて説明しています。健康診断は、ある基準に基づいて、体の健康度合いを測定します。例えば、血液検査では、ある基準があり、その基準の許容値内なら「正常」、許容値を超えると「要再検査」などが指示されます。食品安全のアセスメントも同じで、HACCPやISO 22000、FSSC 22000などをツールにして、自社工場の基準に沿ってアセスメントを行い、自社の取り組みが許容値内に入っているかどうかをチェックします。これがすなわちハザード分析です。病気やケガはハザードではありません。これらはハームです。ハザードというのは、病気やケガを発生させる要因です。食品工場においては、異物が食品に混入するとか、微生物が生き残ってしまうといった危害を発生させる要因のことをハザードと言います。ハザードは、人間がコントロールできます。例えば、人間は微生物を除去することも、その発生を低減することも、緩和することもできます。
では、これまで日本企業は、こういったコントロールをやって来なかったのでしょうか。いいえ、やってきました。ですが、「なぜ、それをやるのか」について、あまり深く考えて来なかったのです。「それをしないと、どういうことが起こるのか」というのがハザード分析です。その重要性を認識することが、これからFSMSに取り組んでいく上での根幹になります。

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