ハザードとは
HACCPにおけるハザードについて
HACCPシステムの7原則の内、HAについては非常に重要な作業であり、この危害分析の良し悪しでHACCPシステム全体の評価が決定されてしまうと言っても過言ではない。
そこで、「ハザード」とは何であるか、良く理解しておくことが大切です。
すでに各チームのディスカッションでハザードの設定をしてありますが、再度、ハザードの原因物質について説明してみましょう。
1.ハザードとは
ハザードとは何か :飲食に起因する健康被害またはそのおそれ。
ハザードの原因物質:食品中に存在することによりヒトに健康被害を起こすおそれのある因子で、次の三つに分類できる。
①生物学的―食品中に含まれる病原細菌・ウィルス・寄生虫の感染またはそれらの体内で産生する毒素による健康被害などを発生させる。
②化学的―食品中に含まれる化学物質例えば農薬による疾病・麻痺または慢性毒性の健康被害を発生させる。
③物理的危害 ―食品中に含まれる異物の物理的な作用による健康被害を起こすもの。
B.C.P.の略は、Biological.Chemical.Physical.の頭文字からきています。
もう少し具体的に説明すると、食品衛生上のハザードとして、飲食に起因する食中毒を誰もが思い浮かべると思います。数年前に日本全国で発生した病原大腸菌O-157はあまりにも有名な話です。
従来からその多くは、サルモネラ・病原大腸菌・腸炎ビブリオ・黄色ブドウ球菌などの食中毒細菌をハザードの原因物質とする細菌性食中毒である。①に該当
また、食品中に含まれる化学物質を原因とする食中毒もある。例えば、ふぐ毒・貝毒・きのこ毒などの食品中に天然に存在する化学物質と農畜産業で使用される殺虫剤や動物用医薬品、工場内で使用する洗剤や殺虫剤、高濃度の食品添加物などの人為的に食品に添加または混入されるものがある。②に該当
次に、金属片・ガラス片などの異物混入により、胃腸障害、歯牙の傷害などは、物理的危害の例である。③に該当
では、三つに分類できるハザードについて詳しく説明しましょう。
(1)生物学的ハザード
1.生物学的ハザードの多くは微生物によって発生し、それらを大きく分けて
①細菌②ウィルス③原虫④酵母⑤カビとなる。
2.微生物の中には、ヒトに対し病原性を有するものもあり、それらをHACCPシステムでコントロールする。
3.微生物が生存して増殖するためには、栄養素・水・適当な温度・適当な空気が必要である。
4.微生物によるハザードには、有害な細菌、ウィルス及び原生動物によるものがある。
5.生物学的危害は、微生物以外にも寄生虫(原虫を除く)により発生し、それらもHACCPシステムによりコントロールする。
食品は原料・製造・加工の全ての工程において、生物学的なハザードの原因物質に汚染さる可能性が高い。
そのうち、肉眼で見えない微生物は、空気中・塵中・海水・淡水・ヒトや動物の皮膚、消化管・食品製造施設内のどこにでも存在している。
微生物を大別すると、①細菌②ウィルス③原虫④酵母⑤カビとなる。(酵母とカビによるものは稀である。ある種のカビはある種の食品中でアフラトキシンと言う毒素を産生するが、これは化学的危害に属する。)
ここでは、ヒトに対し害を及ぼす微生物を制御することを考えること。(有益なものは取り除くこと。)
通常、微生物が生存し増殖するためには、栄養素・水・適度な温度・空気(中には無いほうが良いもの、特殊な組成の空気が必要なものもある。)が必要とされる。
もし、これらの必要な条件が欠ければ微生物は死滅するか、必要な条件が揃うまで機能を停止し、増殖に必要な栄養素・温度・水分量などをコントロールすることにより増殖速度を遅らせたりすることができる。これが微生物制御の基本である。
微生物の中には増殖の過程で副産物を生成するものもいる。
これら副産物の中にはヒトにとって望ましくないものが多く、食品の腐敗変敗を引き起こす。この腐敗変敗しても、外観・色調などによる識別ができずに、健康被害をもたらす可能性のあるものについては、HACCPシステムでコントロールし、予報するべきである。
食品の製造・加工の段階で、多くの種類および量の微生物が増殖したり、同じ状態を保ったり、減少したり、完全に死滅したりするが、たとえ十分な加熱工程により病原微生物が死滅したとしても、その他の微生物は生存し続けることもあることを知っておくことも重要。
ここで微生物の簡単なお話に触れてみます。
① 病原細菌について
1.細菌の感染・感染時に放出される毒素および食品中で細菌により産生された毒素の作用による。
2.芽胞菌と非芽胞菌系に大別できる。
病原細菌による危害とは、食品中に含まれる病原細菌を飲食することによる感染または感染時に産生・放出される毒素の働き及び食品中で細菌によって産生される毒素の作用による健康被害を指す。
病原細菌は、芽胞を形成するもの(クロストリジウム属菌・バチラス属菌など)と芽胞を形成しないものがある。
芽胞を形成しない細菌は、化学薬剤とか加熱により致命的な処理となるが、芽胞形成菌では抵抗性がかなりある。従って、加熱殺菌によっても生き残り、食品中で発芽して増殖型の菌に変化した場合は、危害の原因となることもある。この場合、芽胞に対する適切な措置を含めた工程管理が必要となる。
芽胞を形成する菌 ボツリヌス菌・ウエルシュ菌・セレウス菌
芽胞非形成菌 腸炎ビブリオ・黄色ブドウ球菌・サルモネラ・病原大腸菌・カンピロバクター ジェジュニー・コリ・エルシニア・エンテロコリティカ・ナグビブリオ・
リステリア・モノサイトゲネス・その他の食中毒細菌。
② 腐敗微生物について
腐敗微生物という名称のものが存在しているわけではなく、細菌や酵母が産生する蛋白分解酵素の作用で食品を分解、有毒物質(有毒アミン)や不快臭のある物質を産製させやすい微生物群のことをいう。脂肪分解については「変敗」というが、両者を併せて腐敗微生物と呼ぶ。
腐敗に関与する微生物は、食品特性に深く関連し、食品によってかなり異なる。
腐敗食品から多く検出されるものは、ミクロコッカス・バチルス・クロストリジウム・シュードモナス・プロテウス・乳酸菌・酵母などである。
③ 寄生虫(原虫も含む)
生物で習ったように、寄生虫は生きていく為に宿主が必要。大別すると、原虫とぜん虫に分けられ、ぜん虫は、更に線虫(回虫類)・条虫・吸虫に分けれる。
原虫は、単細胞動物で多くは顕微鏡でしか見ることができない。多くの経口寄生虫にとって、食品(肉・魚)は自然宿主でヒトが食べることにより感染する。寄生虫の生存にとって重要な要因は適切な宿主(どんな宿主にでも感染が成立するわけではない)と適した環境(温度・水・塩分など)である。
また、ある種の寄生虫は、感染している宿主動物の糞便によって汚染された食品または飲用水を介してヒトに感染する。加熱を十分に行うことにより寄生虫は死滅できる。
生食か加熱不十分によることが、ほとんどと考えて良い。ヒトに健康被害を起こす可能性のある寄生虫は、アニサキス・トリヒナ・ギアルディア・クリプトスポリディウム。
④ ウィルスについて
ウィルスは細菌より小さく、感染によってヒトに健康被害をもたらす。ウィルスは生きている細胞内に侵入して、宿主細胞内でのみ増殖する。(単独で増殖することはできない。)ウィルスはヒトの消化管内、汚染された水や冷蔵された食品中で生存し続ける。
飲食に起因するウィルスは、生食の魚介類、飲料水を介するものや不衛生な取り扱いによるものが多い。ヒトに健康被害をもたらすウィルスは、下痢性ウィルス・A型肝炎ウィルスがある。
⑤その他の病原微生物について
【Q熱リケッチア】
リケッチアは、グラム陰性細菌同様の細胞壁を持っているが、自己増殖系の代謝活性が微弱で、人工培地に発育できず、感染によってヒトに健康被害をもたらす。生きている細胞内に侵入し、宿主細胞内でのみ増殖する。
Q熱リケッチアは、生の牛乳に存在するが、63℃30分以上の加熱殺菌が義務付けられているわが国では、その被害例はない。
【コレラ菌】【赤痢菌】【チフス菌】これらの経口感染する伝染病であり、使用水、輸入魚介類などを介してヒトに健康被害を起こす可能性がある。
(2)化学的ハザード
1.生物由来の天然化学的ハザード原因物質
2.人為的に添加される化学的ハザード原因物質
3.偶発的に存在する化学的ハザード原因物質
化学物質による汚染は原材料の生産から製造・加工の工程まで至るところで起こり得る。しかし、目的を持って使用され、適切な管理で使用されれば、有害ではない。
消費者に対しハザードとなるのは、コントロールされていない場合や使用基準を超えて使用された場合である。化学物質が存在することが、常にハザードとなるわけではなく、その量によってハザードになるかどうかが決定する。物質によっては、残留基準値が規定されている。
生物由来の天然化学的ハザード原因物質
・マリンキトシン シガテラ・ふぐ毒・貝毒(麻痺性、下痢性、記憶喪失性)
・植物性 マイコトキシン(きのこ毒)・ソラニン
・ヒスタミン
これらの化学物質は、収穫前の植物や漁獲・採取前の魚介類に存在する。
とうもろこし・香辛料・ナツメグは、ある種のカビ毒(アフラトキシン)で汚染されていることが多い。
二枚貝などのある種の貝は、海水中のプランクトンを蓄積することにより毒化し、麻痺性(サキシトキシンなど)下痢性貝毒(オカダ酸)記憶喪失性(ドーモイ酸)を蓄積する。
ヒスタミン…ヒスチジンを多く含むサバを高温で放置すると、ある種の細菌によりヒスチジンが分解されて生成される。
人為的に添加される化学的ハザード原因物質
・食品添加物(使用基準が規定されているもの)
―保存料(二酸化イオウ、ソルビン酸)
―強化剤(ナイアシンなど)
―発色剤(亜硫酸など)
食品添加物は、使用基準に従っている限りでは安全であるが、使用基準を超えた場合は、ハザードを起こす可能性がある。
偶発的に存在する化学的ハザード原因物質
・農薬(殺虫剤・防カビ剤・除草剤)
・動物用医薬品(抗生物質・成長ホルモン・駆虫剤)
・指定外添加物
・重金属
・施設内で使用されている潤滑剤・塗料・洗剤・殺虫剤)
化学物質は、意図的に食品に添加されてなくても、食品に混入し、飲食によりハザードを起こしうる。
これらの中には、施設に受け入れるまでの原料中に混入、存在しているかもしれない。
例えば、家畜の生産者が誤認して抗生物質治療後、休薬期間中にと蓄場に出荷され、基準値を超えた抗生物質を含有していてハザードをもたらすこともある。
また、施設の殺虫に用いた薬剤が偶発的に食品に混入し、ハザードを起こすこともありうる。高濃度に食品中に混入した洗剤によって、口腔内に炎症を起こすこともありうる。
表に化学的ハザードの原因物質とその発生原因・防止措置をまとめてみた。
危害の原因物質 |
発生要因 |
防止措置 |
1.生物由来の天然化学的ハザードの原因物質 ・カビ毒 ・貝毒 |
・原料の輸送・保管中の取り扱い不適 ・捕獲が禁じられている海域・時期 |
・原材料納入者からの保証書、検査成績書の添付 ・原料受け入れ時の採捕海域、採捕年月日の確認 |
2.人為的に添加される化学的ハザードの原因物質 ・食品添加物
|
・添加物規格に適合していないもの ・製剤の濃度・純度に問題があるもの ・使用時、計測の誤り ・配合時の混合不良 |
・添加物製造者からの保証書、検査成績書の添付 ・使用時の適正な計量 ・標準作業書の厳守
|
3.偶発的に存在する化学的ハザードの原因物質 ・農薬(殺虫剤・防カビ剤・除草剤) ・動物用医薬品(抗生物質・成長ホルモン・駆虫剤) ・指定外添加物 ・重金属 ・施設内で使用されている潤滑剤・塗料・洗剤・殺虫剤)
|
・生産者の取り扱いミス ・生産者が休薬期間内に出荷、使用基準違反 ・指定添加物との混同 ・環境からの汚染 ・食品工場用以外の殺虫剤、潤滑剤、塗料、洗剤などの使用 ・殺虫剤、潤滑剤、塗料、洗剤の使用方法不適 ・殺虫剤を食品添加物と間違えての使用
|
・原材料規格の設定、保証書、検査成績書の添付 ・原材料規格の設定、保証書、検査成績書の添付 ・原材料規格の設定、保証書、検査成績書の添付 ・原材料規格の設定、保証書、検査成績書の添付 ・承認された殺虫剤、潤滑剤、塗料、洗剤などのみの使用、受入検査 ・洗剤などの使用方法厳守、取り扱い者の限定と教育訓練 ・適切な表示と専用保管場所での保管 |
(3)物理的ハザード
物理的ハザード:食品中に通常含まれない硬質異物による健康被害
1.金属片(機械器具の部品由来、従事者由来の貴金属・ボタン由来・注射針の破片など)
2.ガラス片(機械器具の部品由来、容器包装由来、照明機器の破片由来など)
3.木片
4.硬質のプラスチック片
5.その他
物理的ハザードとは、食品中に含まれていた固形物を食品とともに飲食した際に物理的な作用によって消費者の歯牙の破損、口唇の創傷、喉の閉息などの健康被害をもたらすものを言う。
これらのハザードの発生防止措置は、
①原材料の受入時の規格設定
②機械器具の保守点検
③標準作業手順書の遵守
④従事者の衛生的な取り扱い、従事者の教育訓練
といった一般的衛生プログラムでコントロールすべきことが多いが、金属異物については金属探知機の導入によってCCPとしてコントロールできることもある。
表に物理的ハザードとその発生原因・防止措置をまとめてみた。
ハザードの原因物質 |
混入の原因 |
防止措置 |
ガラス片 |
照明器具、時計、鏡、温度計、製造機械器具の覗き窓、ガラス製器具 |
破損時の破片飛散防止措置を講じた照明器具の使用、プラスチック製器具への代替、ガラス破損が認められた場合の製品の回収 |
従事者由来の物品(装飾品・筆記用具など) |
従事者 |
従事者に対する衛生教育 |
絶縁体 |
施設、水、蒸気用パイプ |
定期検査、保守点検・適切な材質の使用 |
金属片(ボルト・ナット・スクリューなど) |
原材料、製造設備・機械器具、保守点検担当者、最終製品 |
規格の設定、保証書添付、製造設備・機械器具の保守点検、マグネット・金属探知機の使用、従事者に対する衛生教育 |
そ属昆虫の死骸・それらの排泄物 |
建物・原材料 |
そ属昆虫の棲家の排除、防虫防そ構造の保守点検、防虫防そ対策 |
木片 |
施設・機械器具・パレット |
木製機械器具の排除、検査、保守点検 |
糸・より糸・ワイヤー・クリップ |
袋入りの原材料 |
使用前の排除、検査、スクリーン、シフター、マグネット |
注射針、散弾破片 |
食肉・食鳥肉 |
金属探知機 |
異物混入は、実際に健康被害に直結するものと そ属昆虫・毛髪など不衛生・汚らしい・気持ち悪い・美的でないといった気持ちを抱かせる物に分けられる。
HACCPシステムにおいては、健康被害に直結するものに注意を集中すべきであるが、後者も本来、食品中に含まれることがありえない不衛生異物の侵入を許すことは、一歩間違えると健康被害に直結する異物が混入する恐れがあること、喫食者によっては不衛生感をもたらすだけでなく、ハザードに結びつく可能性があること、目視・感触で容易に確認できるので消費者からの苦情になり、PL事故にもなり兼ねないから、可能な限り混入防止対策を取る必要があることは、言うまでもありません。