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フードディフェンスの基本

コラム

フードディフェンスの基本

自己評価で身の丈に合ったフードディフェンスを。キーワードは「不審な人を入


れない」「怪しいことをさせない」「世間に説明できる」

 

中国製冷凍餃子事件、アクリフーズ農薬混入事件といった毒物混入によるフードテロが発生して以来、食品関係者、特に食品製造会社のフードディフェンスに対する積極的な取り組みが目立っていますが、費用対効果を考慮しつつどこまでディフェンスすべきか、その効果をどうやってみるのか、ディフェンスを継続的に改善していくためには何をモチベーションにすべきか、といった問題に悩んでいる組織は多いはずです。そこで今回は、これらの問題について、Q&A方式でアドバイスいたします。


 
 
 
 

フードテロは予測困難で混入物質も重篤度が高い

 

Q:日本の食品工場において、最近フードディフェンスに対する関心が高まっています。さまざまな食品安全対策がある中、フードディフェンスにはどのような特徴があるでしょうか。

 

A:「フードテロ」という言葉が日本で大きく話題になったのは、中国製冷凍餃子事件だと思います。最近では、2013年の年末に起きた農薬混入事件があります。いずれも対象が冷凍食品で、意図的に混入が行われたものです。この「意図的である」ことが一番厄介です。人が意図を持ってやる行為を予測するのはむずかしいからです。
食品に関して何か問題が起きたら、それが意図的な問題なのか、意図的でない問題なのか、この両者を切り離して考えなければなりません。
例えば、「食の安全」(フードセーフティ)の対象は、意図的な問題ではありません。HACCPなどのツールを使って、予測できる範囲内で防止するからです。また、「品質」の対象も、意図的な問題ではありません。意図的ではなく、偶発的に異物が入ってしまった問題を対象にしているからです。
一方、意図的な問題は、大きく2つのジャンルに分けることができます。1つはフードテロであり、もう1つは食品偽装です。今回はフードテロのみを取り上げますが、これは、「いつ」「どこで」「誰が」「どういう意図で」といったことが予想困難です。また、フードテロでは、濃度が濃いなど、重篤性の高い物質が混入される可能性が高いという特徴があります。
このように、安全や品質に比べると非常に厄介なものを対象にしているのがフードディフェンスなのです。

 
 

Q:フードテロが起きた時は企業の関心が高まり、しばらくするとその熱が冷めてしまうようなことはありませんか。

 

A:その傾向はあるかもしれませんが、フードテロで受ける企業のダメージは非常に大きく、商品回収や社会的制裁など、通常の苦情処理レベルとは雲泥の差がありますから、フードディフェンスは食品製造業者が工場を運営して上での必須要件になりつつあると思います。
また、流通業者の中には、取引先の食品工場に対して、フードディフェンスへの取り組みを要求事項にしているところがあります。自主的というよりも、外的な要因で取り組まざるを得ないのです。

 
 
 

業界団体のチェックリストはレベルが明確ではない

 

Q:フードディフェンスの考え方と取り組みのポイントは?

 

A:フードディフェンスに関して、組織の皆様から「どれくらいのレベルまで活動すれば十分なのか?」という質問をよく受けます。ディフェンスですから、障壁が高ければ高いほどいいわけです。ですが、これまでに作られた工場は、たいていフードディフェンスを想定して作ってはいませんので、新たにハード面でもソフト面でも付加することになります。では、どこまで付加すればいいのかというと、工場によってそれぞれ違いますから、一律にどこまでというのは答えにくいものです。
参考になるものとして、業界団体が出しているフードディフェンスのガイドラインがありますから、紹介しておきましょう。
日本食品衛生協会が「食品防御対策ガイドライン(食品製造工場向け)」を発行しています。平成25年度に改訂されたものが最新版です。米国では、食品医薬品局(FDA)が発行している「食品セキュリティ予防措置ガイドライン“食品製造業、加工業および輸送業編”」と、食品製造者協会(GMA)が発行している「食品サプライチェーン・ハンドブック」が参考になると思います。英国では、英国規格協会(BSI)がフードディフェンスのガイドラインと
して「PAS 96」を発行しています。
日本では、日本食品衛生協会のガイドラインが分かりやすいと思いますが、ただこのガイドラインで示されているチェックリストは、どのあたりのレベルで設定されているのか、明らかになっていません。これまであまりフードディフェンスに意識的に取り組んでこなかった食品会社が、このチェックリストを使ってセルフチェックしてみると、結構×が付くと思います。大企業でいろんな取り組みを経験されているところは、かなり○が付くかもしれません。企業によっては、チェックリストで×が出たところに対して、「これはなかなか当社では対応できない」と腕を組んでしまうことも出てくるかと思います。それでも、チェックリストに頼ってどんどん取り組んでいくと、過度な投資をせざるを得ない部分が出てきます。このガイドラインに掲載されているのは、必要最小限のチェックリストではないことを考慮しておくべきでしょう。
また、取引先からフードディフェンスの要求事項があれば、それを全部受け止めて実施するというのも、これまた投資が大きく膨れあがる可能性があります。要求事項にそのまま対応することで、設備投資した分の効果が見出せない場合があるからです。
そこで、取り組みのポイントとして大事なのは、身の丈に合った、実情に合った対応をするということです。そのためには、まず自己評価を行った上で、「今すでにやっていることは何か?」「これからやらなければならないことは何か?」「将来、ゴールとして目指すことは何か?」、基本的にこの3階層は整理した上で取り組むべきだと思います。

 
 
 

円滑なコミュニケーションでフードテロを防ぐ

 

Q:自己評価のやり方については

 

A:例えば、先ほど申し上げた「PAS 96」に、自己評価の技法としてTACCPが紹介されています。TACCPのTはThreat(脅威)、AはAssessmen(t 評価)、CCPは、HACCPと同様、Critical ControlPoints(重要管理点)のことです。ただ、TACCPはあくまでガイドラインであって、何をやるべきか(what)は書いてありますが、どのようにやればいいのか(how to)は書いていません。
では、具体的にどのようにすればいいのか。まずは、何かを入れないことです。工場の敷地を明確にしたり、守衛さんを置いたりして、あやしい人や部外者を簡単に入れないことが非常に重要です。次に、もし誰かが工場の中に入ってしまったとしても、何もさせないような防御を考えなければなりません。異物を意図的に混入できないようにします。さらに何か疑われた時に、「当社はこれだけのことをやっています」という記録などによる証明がきち
んとできることです。
まとめて言いますと、「何かを入れないための防御」「何かをさせないための防御」「証明をすることができるという防御」(説明責任)、この3つの観点で自己評価を実施すれば、自社の現状が把握しやすいと思います。

 
 

Q:ディフェンスを強くすればするほど、作業効率が悪くなる面があります。例えばボディチェックをしたり、施錠を増やしたりすると、それだけで作業にかかるまでに時間を取られてしまいます。この相反する部分について悩んでいる組織は多いと思いますが。

 

A:そこを補う方策として、第一に、コミュニケーションがあります。社内のコミュニケーションを円滑にしていけばいくほど、フードテロを防げるようになっていきます。これはハードに頼らない部分です。従業員に不平不満が全くないという会社はないでしょう。ですから、不平不満があったとしても、それが意図的な攻撃に走らないようなコミュニケーションというのが大事になってきます。社内の風通しを良くし、不平不満を含めて何でも社内で言い合うことができ、話し合いながら解決していくという姿勢を会社側が持つことです。最終的に不平不満を解決できる・できないは別として、従業員から上がってきた声は拾い上げる
ことが重要です。
第二に、ルールとして決めることです。例えば、多くの食品工場が、工場内に持ち込んではいけないものを決めています。これは、食品に異物を混入されないためのリスト化です。輪ゴム、ゼムクリップ、シャープペンシル(芯が折れるので)等の工場への持ち込み禁止ルールを、食品会社は昔から実施していました。そこには、「毒物を持ち込んではダメです」といった感覚はありませんでした。ところが、実際に毒物混入の事件が起きてきたので、作業着のポケットをなくしたりとか、個人の私物の持ち込みを禁止したりとか、新たな項目を
リストに追加しているのが実情だと思います。このルールを解消するための良い特効薬は見つかっていません。飛行機に乗る前の乗客に対するセキュリティ検査のようなもので、必要不可欠なものかもしれません。
第三に、業種に応じたセキュリティ対応をすることです。食べ物の露出度が高いラインでは異物を混入するチャンスが多いのですが、密閉系のラインではそのチャンスは少ないわけです。その違いを考えて、セキュリティ対応をしなければなりません。
第四は、原則として一人で作業をさせないことです。一人で作業をさせると異物混入の可能性が高まります。
第五は、暗闇や死角を作らないことです。「明るい」ということは大事なことです。明るいところで作業をすると、なかなか悪いことはしづらいものです。もともと食品工場というのは5Sが基本です。必要なものが必要な時に すぐにとり出せるよう、定位置定数管理をきちんと行っていれば、そうじゃないものが見えたりすると、従業員はすぐに分かります。

 
 
 

フードディフェンスでマイナスの結果が出ることも

 

Q:フードディフェンス実施後に、それが効果があるかどうかをどのようにして確認しますか。

 

A:自己評価を実施した上で、自分たちが計画し目指していたものに対して、結果はどうであったかを確認するには、もともとフードテロは意図的なものですから、起きたら効果がなかった、起きなかったら効果があった、と考えるのが正論です。
ただ、起きなかった場合でも、計画を立て(P)、それを実行し(D)、きちんと実行できたかを確認し(C)、問題があれば見直しをかける(A)というように、PDCAを回しながら継続的改善をはかることが重要です。フードディフェンスが従業員の活動や経営に何かダメージを与えているなら、活動の見直しをする必要があるでしょう。例えば、フードディフェンスによって、職場の雰囲気が悪くなったのなら、何らかの見直しをするべきでしょう。フードディフェンスでは、すべてプラスの結果が出るわけでなく、マイナスの結果も出てくる可能性があることに留意すべきです。
多くの食品工場において、監視カメラが導入されています。監視カメラには、証明力、抑止力という意味で効果があります。ただ、監視されていることに対しての「負」の感情を抱く従業員もいるわけで、効果を検証する場合も、検証そのものを慎重にやることが大事だと思います。やはり前述したように、円滑なコミュニケーションを通じて、思った通りの効果が出ているのかをみていただきたい。また、会社側と従業員との対話を通じて、フードディフェンスが従業員にどのように受け止められているのか、こういった調査も検証の中に取り入れる必要があると思います。

 
 
 

消費者側の立場で「食の安全」を越える

 

Q:フードディフェンスの取り組みを継続的に改善していくために、どのようなことがモチベーションになるでしょうか。

 

A:一番大事なのは、食品工場に勤める方の認識だと思います。「食の安全を脅かす」ということが、どれほど社会に不安を与えるのかについて、食品製造側と消費者側の意識がマッチングしていなければなりません。つまり、食品製造側に、消費者側の立場で「食の安全」を考えていただくことがポイントです。
2014年に内閣府が「消費者行政の推進に関する世論調査」を実施しましたが、その結果を見ますと、この1〜2年の間に生じた消費者問題に関心が「ある」と答えた人に対して、どの分野の消費者問題に対して関心があるか聞いたところ、「食中毒事故や食品添加物の問題などの食品の安全性について」を挙げた人が81.7%と最も高く、続いて高かったのが、「偽装表示など事業者による商品やサービスに関する偽りの情報について」(66.8%)でした。この調査結果を見ても、消費者が食品に対していかにセンシティブになっているかが分かります。消費者の多くは食品に対して「これは本当に大丈夫かな?」と思っています。ですから食品製造会社は「これは大丈夫です」と胸を張って言い、なにかクレームがあれば、「当社はこのような対応をしてきました」ときちんと説明できるようにしておかなければなりません。
売りっぱなしではなく、最後に消費者の口に入っても安全であるということを担保できることが大事で、それが昔から言われている“from farm to table”であり、食品製造会社の責務です。その認識がすべての従業員に行き渡れば、フードテロは未然に防げるかもしれません。。

 
 
 
アイソス No.214 2015年 9月号 掲載記事を一部加工して転載

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