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第5回 教育・訓練のやり方

コラム

第5回 教育・訓練のやり方

世界最高峰の食品安全認証規格
 
FSSC22000にトライ!
 
~キックオフから認証審査まで~

 

今回は「教育・訓練のやり方」をテーマに、具体的な取り組みのポイントを説明したいと思います。

 
 
 

必要な力量を明確にしてから教育・訓練の計画を立てる

 

ISO 22000の教育・訓練に関する要求事項を見てみましょう(図表2)。
教育・訓練に関する基本的な内容は、最初に、「組織の食品安全パフォーマンス及びFSMSの有効性に影響を与える業務を、その管理下で行う外部提供者を含めた、人(又は人々)に必要な力量を決定する」と書かれています。実は、多くの組織はここがきちんとできていません。PDCAだからというので、いきなりPから始められるのです。つまり、教育・訓練の計画を先に立ててしまうのです。必要な力量を明確にしないまま立てた計画には、目指すべき力量の方向が示されていませんから、その計画を実施しても、評価も改善もできません。ですから、Pをやって、Dをし、またPをやって、DをするというPDPDを繰り返すことになります。「○○教育を実施しました」と言われる組織に、私が「その教育は何のためにやっておられますか? その目的は何ですか?」と聞くと、案外答えられない場合が多いのです。それは、力量不足分を明らかにしないまま教育・訓練計画を立てているので、目的が見えていないからです。
力量というのは何でしょうか。「知っている」ことと「できる」こと、この2つを足したものです(図表3)。
必要な力量の考え方 殺菌を担当する人に必要な力量は何でしょうか。殺菌する機械に関する知識を知っていることであり、殺菌する温度が下がった時にきちんと調整ができることなどでしょう。作業者は、その作業に必要な力量を100%持っていることが一番いいのです。ですが、実際は必要な力量の8割とか5割とかしか持っていない場合があります。であれば、その不足分を補うための適切な教育を実施し、100%になれるようにチャンスを与えることが必要です。このように力量の不足分が明らかになれば、自ずとその不足分を補うための教育・訓練計画が見えてきます。
私が務める認証機関において、ISOマネジメントシステム審査で一番不適合が多い要求事項は「力量」です。なぜ、そうなのか。その原因は、この要求事項の最初ができていないからです。つまり、必要な力量を明らかにしていない組織が多いのです。

 
 
 

教育・訓練の責任は教える側・教えられる側双方にある

 

PDのあとはCですが、教育・訓練を実施したあとは、きちんとその評価をしなければなりません。ここで重要なことは、教育・訓練の責任は、教える側・教えられる側においてフィフティー・フィフティーで負うべきだということです。教育をしても理解しなかったのは、教育を受けた側の責任ばかりではありません。例えば、研修中に居眠りをしている社員が多かったのは、使った教材に問題があったのかもしれません。社員の力量がなかなか上がらないのは、そもそもOJTの時間が短すぎるのかもしれません。ここできちんとした評価ができないと、PDCの次のAで適切な改善につながりません。
是正処置報告書の原因を書く欄でよく見かけるのが「人の教育が足りなかった」という表現です。そして、その是正処置は「再教育をします」というものです。日本人は「再教育」という言葉が好きです。ミスを担当者の責任にして、その人を教育すれば解決すると考えておられる組織が非常に多いのです。
このような対応をする前に、よく考えてみましょう。その作業で組織が求めている力量はどれくらいのレベルだったのでしょうか。また、その担当者の力量はその時、どれくらいのレベルだったのでしょうか。そのギャップが大きければ、そもそもその担当者にその作業はさせてはいけないわけであり、ミスも当然起きることになります。こういったことを明らかにしないで、すべてを人の問題にして再教育で対応するというのは、あまりにも短絡的な解決方法だと言えるでしょう。

 
 
 

教育・訓練の評価お薦めは資格認定制度

 

食品工場におじゃまして教育・訓練の話をしますと、「いや、うちにはそんな余力はないですよ」「人海戦術でやっているので、勉強する時間を設けることがなかなかできません」と、皆さん、言い訳をされます。そこで私はいつも、「知恵を出しましょう。少しずつなら、やるチャンスはいくらでもあります。毎日ちょっとでも向上していけばいいじゃないですか」と言って、相手を励ますことにしています。
「君は、○○の仕事をやりなさい」ではなく、「君は、○○の仕事ができるようになってください」と言い出した時から、教育は始まっています。そこにはすでに、「君は、こういう力量を持たなければならない」という目的意識があるからです。目的があれば、計画を立て、実行し、その評価を行い、改善することができます。ただ、日本の組織は、PDCAのPDはすぐにできますが、CAは苦手です。そこを補うため、Cの評価を社内の制度にして明確化するのも一つの手です。お薦めは社内での資格認定制度です。対象は何でも構いません。例えば、異物検査者資格、官能試験者資格、等々。ペーパーや実際の作業でテストして、合格すれば資格を付与し、会社として評価するわけです。このような社内制度を作れば、業務内容ごとに必要な力量も明らかになりますし、社員は資格を取ることで会社から評価されるわけですから励みになります。
社内資格の付与でモチベーションアップ 皆さんの会社には、方針があり、目標があると思いますが、それらが社員の個人とどう結びついているのか、明確になっているでしょうか。「うちには食品安全に関する方針があり、目標もあるけど、自分はそれに対して何をやったらいいのか分からない」と考えている社員の方はいませんか。このような社内制度を設けると、社員の方は「私はこの検査を任されている」「私はこの工程の管理を任されている」という自覚を持ち続けることができ、自分の力量が会社の方針や目標の達成にどのように結びついているのかが見えてきます。
組織が必要とする力量が明らかになると、組織の目標が見えてきます。個人に求められる力量が明らかになると、個人の目標が見えてきて、それは会社の目標に直結すると思います。

 
 
 

「適切な記録」の意味は形ではなく中身が肝心

 

ISO 22000では、教育・訓練及び処置について、適切な記録を維持することが要求されています。この「記録」について、組織の方からよく「OJTの記録も取るんですか?」と聞かれます。例えばOJTで、一度先輩から仕事について教えてもらったことは、二度聞くのが恥ずかしいので、メモを取ることがあると思います。そのメモを記録として扱えばいいのではないでしょうか。
記録というものは、何月何日何時何分に誰がどこでどうしたと書くべきであると言う方がおられますが、先ほども申しましたように、大事なことは「目的は何か」ということです。どういうトレーニングを受けたかということが明らかで、それが評価できる内容であれば、その記録の目的は達成されているわけです。それが規格の言う「適切な」の意味だと思います。形から入るのではなく、中身から入ればいいのです。

 
 
 

食品工場の教育・訓練は「常識」から先の話

 

「ルール」を守ってもらうための「教育・訓練」というのもあります。ですが、その際にお考えいただきたいのは、常識までルール化すべきではないということです。 例えば、食台の上にある醤油の小瓶を誤って倒してしまい、醤油が食台にこぼれたとします。普通は、こぼしたら、すぐに布巾か何かで拭きます。これは常識なので、あえて「醤油をこぼしたら拭くこと」なんてルールを作ったりはしません。ルールがなくても、マニュアルや手順書に書いていなくても、普通の人なら認識していることです。食品工場というのは、この食卓が拡大されたものだと考えてください。
食品工場なのに、汚れた靴を履いたまま何の自覚もなしに工場に入ろうとする社員がいるなら、「靴は汚れたら洗う」というルールを作らなければならないのでしょうか。むしろ、そういうルールを作らないとできない人の育て方に問題があると思います。これは会社が行う教育・訓練以前のレベルです。食品工場では、人の口に入るものを作っているのですから、食品安全に関しては、常識レベルは維持できていなければなりません。これが食品工場のスタート地点です。ISO 22000の言う「教育・訓練」は、そこから先の話になります。

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